―本日は、大阪ガス労働組合株本委員長にお話を伺います。よろしくお願いいたします。
株本
よろしくお願いします。
―まず、株本委員長はまだまだ女性が少ない頃から組合活動をされてきたと思いますが、これまで活動してきた中で何かご苦労されたことや大変だったことはありますか。
株本
そうですね。やはり会社に比べて組合の方が遅れているなと感じました。当時、女性参画といえば会社は一生懸命取り組みを進めていましたし、労働組合としても女性役員が少ないという課題に取り組み始めたばかりでした。その頃に私にも声がかかりました。やはり非常に悩みましたが、私が気が楽だったのは、既に先輩の専従者が1人いらっしゃって、2番手だったということでした。1人では寂しいだろうし、活動していく中で何かと心細いということへの気遣いもあり、私が2代目になりましたが、先輩と一緒に始めさせてもらえたのは心強く、楽しくやらせてもらえたと思います。
強いて苦労と言えば、もう17年前にもなりますが、UIゼンセン同盟スタートと同時に女性役員(特別中執)になりましたが、女性ということでひとりで何役も多くの役割をいただいて、会議に出席はするのですが、何もわからない中で突っ走ってきたことは、今思い返すと大変だったなと思います。
―そのようなとき、どのように乗り越えていらしたのでしょうか。
株本
周りの人たちと話をする中で、「今の自分でいいんだ」と勇気づけられました。当時の男女共同参画の局長にも「株本さん、そんなに気を張らなくていいのよ」と言っていただきましたし、一緒に活動する先輩や仲間のみなさんにも元気づけていただいたことで、「このまま思ったことをやればいいんだ」と考えられるようになったことが一番大きかったですね。ただし「人から学ぶ」という姿勢は大事だと思います。
―たぶん今、同じように感じている新たに活動に加わった女性や、女性ということでいろいろな役割を担う中で「自分で大丈夫なのかな」と不安に感じている女性も非常に多いと思いますので、そのようなお話を聴くときっと安心されるのではないかと思います。
株本
今の女性役員のみなさんも、声がかかった時、悩みながらも「やってみよう」と思ってくださっているとは思いますが、決して「自分がなるべきだ」と思う方はいないんじゃないかと思います。そのような中で、不安はあるとは思いますが、周囲の方々が助けてくださるはずですので、「やって欲しい」と声がかかることを、ぜひチャンスと捉え、引き受けるのはご自身にとってもプラスになると思います。
―株本委員長は今、数少ない女性委員長でいらっしゃいますが、最初に委員長になって欲しいというお話があったときに、どのように感じられましたか。
株本
まずは、誰でもそうだと思いますが「私で大丈夫か」と申し上げました。その意味は、自分に自信がなかったこととあとはやはり、業界でも単組でも過去に女性委員長はいなかったので、その意味も込めまして「私でいいのでしょうか」とお尋ねした訳です。その時に、前任の委員長が「女性だからという訳じゃない」と言ってくださいました。単に女性の数を増やそうとか、時代の流れだからということではなく、私にやってほしいのだと言ってくださいました。ものすごく悩みましたし、返事をするまでに時間もかかりましたが、その言葉が最後は私の背中を押してくれた気がします。最終的には「お受けします」とお返事をしていました。局長もそうですよね。
山﨑男女共同参画局長
そうですね。僕は逆に初の男性局長ということで、驚きもあったけれどやり甲斐もあったので引き受けましたね。
株本
やはり「初」という冠を自分が意識しなくても、そういう見え方はされますので、プレッシャーがなかったかと言えば、やはりありましたね。それでも先程の話のように「ありのままでいい」と言ってくださることで、受けてみるべきだと思ったのです。
―とは言えやはり女性委員長は少ない中で、女性だから苦労することや、逆に女性の強みを活かせる面というのはありますか。
株本
委員長をさせていただいてまだ1年半ですが、女性だからと意識をしたことが実はあまりないんです。単組の中でもそうですし、UAゼンセンや外部に行ってもそうなのですが、必要なことはどなたかが発言してくださればそれでいいですし、それが男性でも良いと思っています。ただ、女性である以上、女性目線は必要だと思っています。
意識しているのは、時代の流れとともに「女性だから!」(と拳を突き上げる)というような活動を前面に押し出すのではなく、時代の変化とともに枠にとらわれず、多様性を認め合うことではないかと思います。性別を意識することなく自然に活動ができるということが大切でして、その視点のひとつに、お互いが男女共同参画の視点を持っていれば良いのかなと思います。
―ありがとうございます。続きまして、株本委員長が組合活動をされる中で大切にされていること、心掛けていらっしゃることなどがあればお聞かせください。
株本
まず、労働組合の活動の目的に、「組合員一人ひとりのしあわせ実現」があります。私は、組合員全員が笑顔になることを大切にして活動を進めたいと思っています。近年の活動では「人にとことんこだわる」を単組のメンバー全員で意識して取り組んでいるところです。やはり労働組合は人との繋がりが一番大事であり、人とのご縁を大切にしたいと思います。自分が近づけば相手も近づいてくれると思えば、緊張する場面もありますが、少し背伸びをしながらも、自らが近づけるように雰囲気を作ってみたりしています。「行動を起こせば扉は開く」ということを実感しています。
―株本委員長からはすごくそのような、壁を作らない、みんなが親しみやすい空気を感じますよね。続きまして、委員長になられて毎日大変お忙しいかと思いますが、プライベートとの両立についてどう感じていらっしゃるか、また何か工夫されていることがあればお伺いできればと思います。
株本
「お忙しいでしょう?」と言っていただくのですが、何をもって忙しいのか実ははよくわかっていないです。案外休みも取れていますし、活動予定の調整など、自分で時間を確保できるようになってきていると思います。そして、やはり人との交流や繋がりが大事ですから、休みの日に人と会うときでも、たとえそれが組合関係の人とでも、自分が楽しむものであれば、全く苦にはならないですね。どう思うかは人それぞれの価値観ですが、組合ですから、自分たちが楽しいと思えることが一番大事かなと思っています。
あとは、気持ちの切り換えが大事ではないかと思います。仕事やプライベートでしんどくなることって、みなさんあると思いますが、“ガス抜き”できる人をどの場面で持てているかというのが大事ではないでしょうか。その時々で「ちょっと聞いて!」と言える人が何人いるかが重要で、そういう繋がりが多い人は強いといわれています。ガス屋だからいうのではないですが(笑)“ガス抜き”ができる人をたくさん持っているほうが自身の中でのバランスが取れるということを聞くと、組合の仕事をやっているお陰でそういう人に恵まれていると思いますし、自分の中ではバランスを取る意味でもありがたいなと思っています。
―続いて、まだまだ組合の中では女性役員が少ない中で、これから女性役員を増やしていくにあたって、何か必要だと思うことなどあればお聞かせください。
株本
そうですね。大きくは2点あるのではないでしょうか。まずひとつめは、「経験」です。今まで組合を支えてきた多くは男性のみなさんで、若い頃から組合活動に関わりをもち、役割を任され、今はそれを生かしたお立場、役割に就いていらっしゃると思うのですが、女性はそうした経験を積んできていません。私もそうでしたが、UIゼンセン同盟の特別中執をさせてもらって会議に出ても、議論されている内容がわからないことばかりでした。そこで「私には向いていないんじゃないか」「私の能力ではだめなんじゃないか」と普通は思ってしまうものです。ただ、これは能力や性別の問題ではなくて、若いときからの組合経験の差であり、どのくらい組合活動を身近に感じてやってきたかの差だと思っています。今だから言えるのですが、今分からないことがあっても「経験がないことや知らないこと」を事実として受けとめ、この機会を与えてもらったのであれば、色々な人から教えてもらったらいいのではないかと思います。私もそうして学びましたし、決して自分がだめなんだとか思わずに、「前向き」に参加していただくこと、経験を積むことが大切ではないかと思います。
もうひとつは、女性活躍を進める中で人数を増やそうと言っていますが、声のかけ方として、期待や役割をきちんと明示して「あなたに担ってほしい」と言わないと、「女性の数が必要だからこの会議に行ってね」というだけでは、たぶん何のために自分が行かされているのか分からないと思います。そこをきちんと伝えてくだされば、期待を与えられた女性の方もモチベーション高く臨めるのではないかと思うので、単に「行ってくれればいいよ」というような声の掛け方は逆に良くないのではないかと思います。
―おっしゃる通りだと思います。それでは、最後になりますが、これからトップリーダーになろうという女性の中には、トップリーダーになることに対して不安を抱いていたり、なかなか自信が持てずに躊躇してしまう女性も多いと思うのですが、そういった後に続く女性役員に対して、何かメッセージ・アドバイスがあればいただければと思います。
株本
そうですね。自信があるかないかで言うと、私も自信なんてなかったですし、特に労働組合の中で経験が少ない場合は男性も女性も自信がある人は少ないのではないでしょうか。「こんな自分でいいのかな」と思われることでしょう。とは言え、そういうお話をいただくということはチャンスですし、自信のなさは、先程お話ししたとおり周りから教えてもらったり、時間が経って経験を積めば、埋められるものだと思っているので、あまりご自身で卑下したり遠慮することなく、「やってみよう」という気持ちが大事なのではないかと思います。せっかく与えられた機会をチャンスと捉えて、逃さないようにすることが一番大事だと思います。
後輩たちからこんな相談をされることもあります。「私には向いていないかも知れない」とか「もう辞めようかな」などと聞かされるのですが、辞めることはいつでもできるとお話ししています。向いているかいないかについても「向き不向きよりも前向き」とよくお伝えするのですが、「前向き」な気持ちがあればきっとそのチャンスは良い方向に動くと思っています。最終的に辞める決断はいつでもできると思って、まずはチャンスを生かすこと、せっかくの機会は受けてみること、というのはちょっと偉そうですが、私の経験から感じていることです。
―ありがとうございます。きっと後に続く女性にとって力強いメッセージになったのではないかと思います。株本委員長、本日はお忙しい中お時間をいただきまして、本当にありがとうございました。