2023年1月18日、UAゼンセンは大阪市内(グランキューブ大阪)で第11回中央委員会を開催しました。本中央委員会には中央委員、特別中央委員、役員など約620名(リモート参加含む)が出席し、「2023労働条件闘争方針」など2議案を可決。出席者一丸となって2023労働条件闘争の勝利を誓い合いました。
第11回中央委員会の様子
松浦昭彦会長による挨拶【全文】
はじめに
まず、ご挨拶に入る前に、昨年12月に大変強い寒波が日本に襲来し、新潟県をはじめ多くの地域で豪雪による被害がありました。被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます
UAゼンセン第11回中央委員会にご参加頂いた中央委員、特別中央委員、傍聴の皆さん、大変ご苦労様です。日頃はUAゼンセンの運動にそれぞれの立場で参加・参画・ご協力を頂いておりますこと、感謝申し上げます。
中央委員会の冒頭にあたり、私から、私たちを取り巻く直近の諸情勢と、当面する運動課題について所感を述べさせて頂きたいと思います。
新型コロナ禍と日本社会・経済を取り巻く情勢について
新型コロナ禍については、感染の波も第8波を数え、今年春には丸3年が経過するという、想像以上の長期に渡る社会課題となりましたが、重症化率や死亡率が低下する中で、日常生活を徐々に取り戻す「ウィズコロナ」の対策が社会的にも企業内部においてもとられるようになりました。しかしながら、この間様々な産業・業種が受けた深い傷は即座に癒されるものではなく、現在も十分に需要が回復しているとは言えない業種が少なくありません。一方で、経済活動の回復に伴い人材不足もほぼ全ての産業・業種で強まってきています。コロナ禍の推移と加盟各組合企業の状況について、今後も引き続き緊張感を持って見守り対処していく必要があります。
世界的には、欧米先進国の需要回復とロシア・プーチン政権の暴挙としか言いようのないウクライナ侵略が引き起こしたエネルギー・穀物価格高騰などにより、世界的な物価上昇と為替の急激な変動が発生しました。また、中国のゼロコロナ政策は世界のサプライチェーンを停滞させ、その後の感染急拡大も混乱を呼んでいます。
こうした状況の中、日本においても原材料価格やエネルギー価格が高騰し、昨年から明確な物価上昇局面となりました。とはいえ、日本国内の消費者物価上昇率は他の国よりかなり低く、サプライチェーンにおける価格転嫁が十分に行われていない実態にあります。海外の消費者物価上昇と円安は輸出産業にはプラスに働きますが、国内消費向けの産業は輸入原材料やエネルギー価格の上昇を適正に売値に反映しなければ収益を維持することができません。一方、これまで日本は25年以上の長期にわたり賃金が停滞し、消費者物価も大きく上がることがありませんでした。結果として、先進国の中で最も賃金が低く物価も安い国の一つとなりました。端的に言えば、日本は相対的に「貧しい国」の方向に突き進んできた、ということです。こうした状況を脱するには何をどうするべきなのか、様々ありますが、目下のところは、賃上げの成否に世の中の注目が集まっている、ということは間違いありません。この点については後ほど、労働条件闘争方針案について触れる中で、更に申し述べたいと思います。
日本を取り巻く課題はそれだけではありません。
少子化はコロナ禍を経てより顕著になり、出生者数はついに年80万人を切りました。これまで申し上げてきたとおり、人口急減社会は若年層から順に起こり、高齢者を支える労働者の負担はより重くなります。その負担を賄いつつ、安心して子育てをしていくには、労働生産性の抜本的向上を背景とした一人当たりの所得向上と、子育てや介護と仕事の両立がしっかり支援され、より多くの人たちが支える側に参加できる社会保障の見直しが不可欠です。また、コロナ禍でその脆弱性が顕在化した医療機関の在り方や医薬品の安定供給にも影響しつつある薬価制度の見直しなど、医療制度の改革も早急に進める必要があります。
地球温暖化問題も日本の産業構造に大きな変革をもたらします。日本は2030年に2013年比46%温室効果ガスを削減し、2050年には排出ゼロ、いわゆる「カーボンニュートラル」を実現する目標を掲げています。現在政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を立ち上げ検討を進めていますが、エネルギー分野だけでなく、カーボンプライシング(排出するCO2の量に応じた企業負担)なども議論されており、物の作り方や物流・販売の有り方が今後大きく変わっていくと考えられます。私たちは温暖化対策の必要性・重要性を認識しつつ、具体策の展開に向けた議論を注視し、連合や支援政党、業界団体とも連携して産業の健全な発展と雇用確保の視点から必要な政策対応を行っていく必要があります。
更にもう一点、私たち労働組合として関わりの深い話題として、人権デュー・ディリジェンスの課題があります。これは、企業の事業活動において、国内外のサプライチェーンを含めた人権侵害の有無を確認・改善することを求めるもので、EU各国で法制化・義務化が進められています。日本では昨年経済産業省がガイドラインを示し、繊維産業連盟がこれに先んじてガイドラインを策定しました。今次労働条件闘争方針案でも取り組みを記載しています。今後、人権問題が発覚した企業や商品は欧米先進国の市場に受け入れられない可能性もあり、もちろん企業が主体となって取り組む課題ではありますが、労働組合としてもこれに関与し、企業の取り組みを確認・促進していく必要があります。
以上、当面する日本の課題、特に私たちの雇用・労働・生活に大きく関わるものについて、私の所感を述べさせていただきました。国際情勢など、まだまだ多くの重要課題が日本を取り巻いてはいますが、時間の都合もあり、昨年の大会で触れている部分もありますので、基本認識は変わらないことを前提に本日は割愛させて頂きます。ご了承願います。
2023労働条件闘争について
次に、本中央委員会で議決頂く2023労働条件闘争方針について述べたいと思います。
日本の賃金停滞は1997年から続いてきました。1997年から2012年までの15年間はバブル経済の崩壊やグローバル経済化の影響による長期デフレ、リーマンショックなどの要因で物価は低下基調の年がほとんどであり、失業率も4~5%と高い状態で、賃上げ率も2%を大きく下回る実績を余儀なくされました。2013年以降は物価がわずかながら上昇し始め、失業率も3%台から2%台となり、賃上げ率は2%を超える水準に回復しました。このように、日本国内だけでみると、一見私たちの行ってきた賃上げはその時々の経済情勢と整合性があるようにも見えます。しかしながら、国際比較でみた場合、他の先進諸国はこの間物価も賃金も上昇し、経済も一時の不況局面を除けば成長を続けてきました。
今、日本の経済と産業、そして労働者の暮らしは岐路に立っています。このまま低賃金で物価上昇に一喜一憂する社会と暮らしを続けていくのか、それとも、生活改善を実感できる暮らし、緩やかな物価上昇とこれを上回る賃金改善の好循環が生まれる経済を作り出していくのか。望ましい姿は言うまでもなく後者です。私は少子化問題解決の糸口もこの辺りにあるのではないか、と思っています。
しかし、ただ賃金を上げれば全てが解決するわけではありません。これまで常々申し上げてきたとおり、これから数年・数十年継続的に賃金を引き上げていくためには、その裏付けとなる生産性の向上が必要不可欠です。サプライチェーンを含めた適正価格の実現と同時に、デジタルツールの更なる活用やビジネスモデルの見直しなど、企業体質の強化について、私たちはその必要性を認識し、生産性三原則の考え方に基づいて労使協議に臨まなくてはなりません。特にこうした対策の遅れている中小企業については、場合によってはむしろ労働組合の方から体質強化策の検討実施を求めて行くくらいの姿勢が必要ではないか、と思います。
少し大上段に日本の構造的問題について述べてきましたが、もちろん、今回の賃上げ要求基準は、現下の物価上昇を踏まえ、これまで目指してきた「産業間」「企業規模間」「働き方」の三つの格差是正を引き続き目指す観点から組み立てたものです。2022年度の消費者物価上昇率は3%前後となる見通しにあり、多くの産業・業種で賃金水準が社会水準を下回るUAゼンセンとしては、先ずこの物価上昇分を賃金引き上げ分として確保し、その上で格差是正を進めるために、4%程度の賃金引上げ、体系維持分込みで6%程度の賃上げを目指すこととしました。具体的には方針案の提案説明に譲りたいとおもいますが、今回の物価上昇は多くの内需型産業にとって収益の増加を伴わないものであり、交渉は極めて厳しいものになると思います。しかし、厳しいからといって今次賃上げが低位にとどまれば、消費は冷え込み、内需型産業は更なる打撃を受けることになります。また、これからを担う人材確保のためにも社会水準並みの賃金水準が必要です。短時間組合員についても、最低賃金が大きく上昇する中で、経験や能力を適正に評価した賃金の高さ、正社員との格差是正を追い求めていく必要があります。こうした点を労使間で徹底的に議論し、組合員の生活安定と企業の持続的発展のために賃上げを含む人への投資が何より重要であることについて、経営に理解を求めていかねばなりません。
昨年末より連合は「緊急アクション」として賃上げの重要性を社会に広く認識されるよう、そして政労使挙げて賃上げに最大限取り組むよう求めて活動しています。私もUAゼンセン会長として、マスコミ対策など賃上げ機運醸成に引き続き最大限の努力を傾注していきたいと思います。UAゼンセン本部・部門・都道府県支部は各加盟組合の交渉サポートを徹底して進めて参ります。労働組合は組合員・働く仲間の労働条件・生活条件を維持向上させるために存在する「労働組合主義」の考えに立ち、先ずは皆でしっかり要求し、組合員の団結を高めつつ闘いを進めましょう!
賃金以外の総合労働条件についても、各部門・部会・業種・組合の実態を踏まえ、積極的に取り組みを進める必要があります。労働時間短縮、定年制度の見直し、均等・均衡処遇、ジェンダー平等、仕事と生活の両立支援、デジタル技術革新と人材育成、悪質クレームを含むハラスメント対策、障がい者雇用、外国人労働者の就業環境の整備、安全衛生など項目は昨年同様ですが、先ほど述べた人権デュー・ディリジェンスなど追加や修文されたものもあります。内容を再度確認の上、自社の制度や運用、職場の実態と課題をしっかり把握し、本年度の改善取り組みに繋げて頂きたいと思います。なお、それぞれの行った改善内容を共有することが、他の組合の交渉を後押しし、社会的な波及効果にも繋がりますので、要求・解決情報の共有にも是非ご協力頂くようお願いします。
当面する政治課題、統一地方選挙について
次に当面する政治課題について述べます。
岸田政権は昨年の参議院選挙で勝利し、衆議院解散がない限り次の参議院選挙まで国政選挙のない「黄金の3年」を手にしたと言われましたが、その後、安倍元総理の国葬の強引な実施、統一教会問題への不十分な対応、相次ぐ閣僚の辞任などにより、支持率が不支持率を下回る状態が続いています。昨年12月には防衛費増額の財源について自民党内から岸田政権への不満が続出するなど、党内での政権基盤も不安定さを増しているように思います。こうした中、マスコミ等では本年5月の広島サミット後には、政権基盤強化のために岸田総理は解散に打って出るのではないか、との見立てもされるようになりました。
これまで申し上げてきたとおり、私は総理の都合で任期中に衆議院解散をいとも簡単に実施できる現行制度には問題があると思っていますが、現実にはこれを止める手段はありません。現状のまま推移すれば国政においては与野党ともに、本年中の解散を念頭においた様々な動きが出てくることになるでしょうし、解散となれば私たちは国民民主党候補者並びに立憲民主党の私たちと考えの近い候補者を支援し、共産党を除く勢力として、政権交代可能な、緊張感ある国会情勢を目指していかねばなりません。そのためにも、これまで申し上げてきたとおり、立憲民主党には共産党と明確な距離を置き、中道で現実的な政策を展開してもらいたいと思いますし、国民民主党には改革中道で政策提言力の高い政党としての存在感を高める努力とともに、働く者の立場を共有する立憲民主党とも連携すべきは積極的に連携する姿を見せて欲しいと思います。
また、当面する国会においては、解散云々の前に、賃上げの実現に政府は何を行うべきか、を与野党ともにしっかり議論し、実効性ある対策を導きだしてもらいたいと思います。岸田総理は「構造的な賃上げ」のために「職務給化」と「雇用の流動化」を進めると言っていますが、私は、働く者の目線から見たときに、決して的を射たものとは言い難いと思います。産業構造の変化とともに「雇用の流動化」が必要となることは否定しませんが、そのためにまず必要なのは安心して転職に必要なスキルを身に付けるための十分なセーフティネットを構築することであり、また、その前に既存企業の抜本的生産性向上策を徹底して後押しすることが先決だと考えます。また、「職務給化」に至っては、これが何故賃上げに繋がるのか、私にはまったく理解できません。賃金決定に職務要素を強めることは否定しませんが、1年1年の働く者の能力向上を評価する現行の職能給的な賃金制度は決して否定されるべきものではありません。安易な完全職務給化はむしろ賃金を抑える事に繋がる危険性さえあります。いわゆる収入の壁問題による就業調整の解消や、中小企業のDX導入支援など、現場目線の議論を是非国会で行なって頂きたいと思います。
前述したように、国会情勢は流動性を増しつつありますが、当面私たちが注力しなければならないのが本年4月(東日本大震災の影響で一部は7月等)に実施される統一地方選挙です。既にUAゼンセンは34都道府県支部から現職・新人併せて83名の組織内・準組織内候補者を推薦決定していますが、候補者の皆さんは全て、先の参議院選挙で「かわい」選挙に最大限注力頂きました。また、組織内・準組織内地方議員の皆さんはカスタマーハラスメント(悪質クレーム)の問題や、コロナ禍における各種対策、中小企業支援、まちづくりなど、地方行政において私たちの政策実現に常日頃尽力頂いています。政策の大きな枠組みは国政で決定されますが、医療や介護、子育てなど私たちの生活に深く関わる事柄の多くは地方行政に具体的な運用が委ねられています。
労働条件闘争と並行した時期の闘いとなり、加盟組合の皆さんには大変忙しい中でご協力頂くこととなりますが、決しておろそかには出来ません。地方選挙に関わる事は政治活動を身近に感じるきっかけにもなります。各加盟組合には、多くの組合員に関与頂き、あるいは関心を持っていただくような対策を是非検討・実施頂きたいと思います。組織内・準組織内候補者全員の当選を果たすと同時に、各地域で確認される組織外の推薦候補者にも全面的なご支援を頂きますよう、よろしくご協力をお願いします。
郷野参与のITUC会長就任について
ご挨拶を終了する前に、ここで一点、私たちにとって大変喜ばしいご報告をさせて頂きたいと思います。昨年11月に開催されたITUC(国際労働組合総連合)の世界大会において、UAゼンセン参与である郷野晶子さんが会長に就任されました。ITUCは日本の連合を含む163ヵ国の労働組合ナショナルセンターが加盟し国際労働運動を代表する組織であり、その会長に日本人が就任すること自体が歴史上初めての出来事です。もちろんこれは日本の連合を代表して就任されたものですが、UAゼンセン出身の郷野さんがこれに選出されたことは、ご本人のこれまでの運動が高く評価されたのは勿論のこと、永年国際労働運動の発展に努力してきたUAゼンセンとしても大変誇らしい事だと思います。郷野参与は、これまで勤めてこられたILO理事と兼任でこの大役を務められます。是非ご健康に留意されつつ、世界の労働運動発展のために大いにご活躍されますようご期待申し上げると同時に、私たちUAゼンセンも連合とともに、精一杯お支えして参りたいと思います。
おわりに
最後に、ここまで申し述べたように、私たちは当面取り組む2つの重要課題として、「2023労働条件闘争」「統一地方選挙」に最大限取り組み、成果を導き出していかねばなりません。コロナ禍が完全に収束したとは言えない状況の中ではありますが、全ての活動は、組合員の職場と生活を守り改善していくための活動であること、そして私たちの社会の未来を作り出していく重要な闘いであることを一人でも多くの組合員に理解頂くことが重要です。その上で一つ一つの課題に全力で取り組み、結果を出していくことが、更なる団結力の強化、組織強化に繋がります。総力を挙げて精一杯、悔いのないように共に闘いに挑みましょう。全ての加盟組合の皆さんのご協力・ご奮闘をお願いし、私の挨拶といたします。