要請の様子 要請の様子 要請の様子 要請の様子

4省庁に対し、適正な価格転嫁の実現を求めた

 

私達の生命と暮らしを支える食品関連産業の実態を把握し、課題の解決へ

 食品関連産業は、安全・安心な食料を安定的に供給することで、私達の生命と豊かで健康な暮らしを支えています。一方で、生活必需品である食品は、消費・価格ともに消費者の意向が強く反映されやすく、小売りにおける熾烈な価格競争の影響で、食品製造や食品流通の分野が「しわ寄せ」を受け、本来の価値に見合った価格になっていない可能性があります。そのため、私達の社会にとって必要不可欠で重要な使命を担う食品関連産業では、食品が生産者から消費者に届くまでの各段階において、それぞれが生み出した価値が公正・適正な価格として評価される取引することが大切です。また、適正な価格による取引の実現は、食品関連産業で働く仲間の労働条件にも直結しています。

 これらの観点から、2003年からUAゼンセン総合サービス部門・フード部会では、フード連合(食品関連産業の労働者が結集した産別組織。連合加盟。組合員は約11万名)と連携し、食品の取引現場の課題である「優越的地位の濫用行為」の改善へ向けた活動を進めてきました。具体的には、活動の一環として、毎年9~10月の期間に、UAゼンセン・フード連合で加盟組合の組合員を対象に、営業担当者に対する「取引慣行に関する実態調査」を実施し、問題となり得る事例の発生状況をとりまとめています。

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 2023年2月13日、UAゼンセン総合サービス部門は、適正な価格転嫁と取引慣行の改善の実現を目的に、フード連合と合同で4省庁(公正取引委員会、中小企業庁、農林水産省、消費者庁)に対する要請を行いました。なお、本要請は上記「取引慣行に関する実態調査」の結果を受け、毎年、UAゼンセン総合サービス部門・フード部会とフード連合が連携して実施しているものです。

「優越的地位の濫用行為」とは?
 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用し、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為のこと。 具体的には、合理的な根拠のない価格決定や物の購入強制(押付販売)、不当な返品などが該当する。これらの行為は、独占禁止法で不公正な取引方法の一類型として禁止されている。

”公正な取引慣行の実現を” 公正取引委員会

 公正取引委員会に対する要請の冒頭、川合孝典組織内参議院議員が挨拶を行いました。川合議員は挨拶のなかで、「現在、著しい物価高騰が問題となるなか、適正な価格転嫁の実現は例年以上に重要な課題となっている。問題認識は与野党ともに共有しているが、適正な物価上昇へ向けて、本日共有する実態調査の結果を公正取引の実現に生かしてほしい」と提起しました(写真右)

 また、川合議員は意見交換において、「公正取引委員会には、独占禁止法にもとづく企業名公表など、これまで以上にふみ込んだ対応をしていただいている。一方で、企業担当者にヒアリングをすると、『なにが優越的地位の濫用行為に該当するのか』の認識に差がある場合がある。長年の商慣習もあり、企業側の認識をすぐに変えることは難しいが、もう一歩ふみ込んだ対応として、効果的な情報発信による周知徹底をはかってほしい」と求めました。これに対し、公正取引委員会の小林渉事務総長と品川武取引部長は、「公正取引委員会にも、『現場の空気感として、適正な価格転嫁の交渉などができる雰囲気ではない』旨の現場の声が寄せられている。これに対し、発注側の企業に『待ちの姿勢』ではなく、積極的に適正な価格転嫁へ向けた交渉ができるように、環境整備に取り組んでいきたい」と回答しました。

”適正な価格転嫁は賃上げにもつながる課題” 中小企業庁

 続いて、中小企業庁における要請では、UAゼンセンの松浦昭彦会長が趣旨説明を実施。「この間のエネルギー価格等の高騰などを受けて、適正な価格転嫁の実現の必要性はより一層強まっている。適正価格を確立するには、サプライチェーン全体を見据えて取り組みを進める必要があり、ぜひ関係省庁で連携して対応してほしい。また、対応に当たっては、本日共有する現場の実態や課題をしっかりと反映させてほしい」と訴えました。

 これに対し、善明岳大事業環境部取引課長補佐は、「中小企業庁としても、さまざまな形で調査を実施しているが、現場の実態把握に貴重な資料をいただいたことに感謝する。いただいた資料を今後の調査に生かしていきたい。中小企業庁では9月には、価格交渉促進月間を設定しており、それに合わせて調査票の配布も行っている。今回、初めて調査結果を公表したが、今後も積極的な情報発信を行っていきたい」と回答しました。

 引き続き、意見交換のなかで、松浦会長は「適正価格を確立するためには、発注側と受注側の双方で努力することが必要となる。また、適正な価格転嫁は、賃上げの実現にもつながっている。今後も情報発信など、後押しとなる取り組みをお願いしたい」と重ねて要請しました(写真左)。加えて、細矢博之総合サービス部門フード部会部会長(全プリマハム労働組合委員長)は、「若い世代と話しをすると、『押付販売』自体を知らない者も多く、改善が進んでいると感じる。一方で、実態としてまだまだ『今後のことを考えれば、買っておいた方が良いのでは…』といった雰囲気も残っている。今後の実態把握など、そういった観点からも取り組みをお願いしたい」と提起しました。

”外食産業における価格転嫁の推進に後押しを” 農林水産省

要請の様子

 農林水産省の要請では、食品産業における適正な価格転嫁の実現の重要性に対し、吉松亨大臣官房参事官・新事業・食品産業部企画グループ長らが、「価格転嫁の推進、適正価格の実現の必要性については、同じ問題意識を持ち、非常に重要な取り組みだと認識している」と言及。そのうえで、「今回、いただいた資料を拝見し、まだまだ取引慣行の是正が必要であると、改めて気づかされたことに感謝したい。今後はガイドラインの策定や中小企業庁によるパートナーシップ構築宣言などを参考に、取り組みを進めていきたい」と回答しました。

 さらに、原田光康総合サービス部門事務局長が、「農林水産省の管轄では、外食産業の事業者においても、価格転嫁の推進が必要。外食産業はこれまでの新型コロナ感染拡大の影響もあり、業績面で厳しい状況にあるが、価格転嫁の後押しをお願いしたい」と強く求めました(写真上)

”適正な価格転嫁について消費者の理解促進を” 消費者庁

 最後に、消費者庁における要請では、川合議員が「新型コロナ感染拡大のもと、食品の安心・安全に消費者の目が向き、さらに原材料価格の高騰も相まって、いまこそ消費者に適正な価格転嫁について理解が求められている。長引くデフレ状態もあり、消費者は値上げに敏感になっており、消費者庁として消費者の理解促進をお願いしたい」と提起しました。続いて、松浦会長は「消費者庁は『消費者の目線』に立った行政を進めているが、UAゼンセンの組合員は消費者=『お客さま』に商品やサービスを提供する側にいる。サービスを提供する側とされる側が共に尊重し合い、商品・サービスを適正な価格で消費することができるように取り組みを進めてほしい」と要請しました。

 これに対し、消費者庁の山地あつ子消費者教育推進課課長、松井瑞枝消費者安全課課長補佐からは、「消費者庁は現在、『エシカル消費』の普及に努めている。そのなかで、消費者団体と話をすると、必要な価格転嫁についてはだいぶ理解が進んでいるように感じる。引き続き、消費者に対し、発信を続けていきたい」と応じました。

 さらに、意見交換のなかでは、細矢フード部会部会長が、「報道を見ていると、『なぜこんなに値上げが続くの?』といった面を取り上げたものが多いように感じる。しかし、労働組合としては『物価が上がり、賃金も上がるという循環が大切です』ということをしっかりと情報発信してほしい」と要請(写真右)。松浦会長も「今後はメーカー側に『量より質』が求められていく。『捨てられてしまう製品に関するコストも消費者が負担している』ということも、しっかりと消費者に伝えていく必要があるのではないか」と重ねました。

 これらの提起について、山地課長は「『そもそも物価とはどのように決定されるのか』といった観点で、しっかりと消費者に情報発信を続けていきたい」と回答しました。

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