実体験とともに、アジアの女性を取り巻く環境を共有
Zoomをつうじて講演を行う郷野ITUC会長
2023年2月14日、UAゼンセン多様性協働局は第2回男女共同参画委員会を開催。さらに、委員会の終了後、昨年11月にITUC(国際労働組合総連合)の会長に就任した郷野晶子UAゼンセン参与(UAゼンセン元副会長)を講師に招き、学習会を実施しました。学習会では、委員会の参加者に加え、Zoomをつうじて全国各地をつなぎ、約120名が参加しました。
学習会の冒頭、郷野ITUC会長は「私の”故郷”であり”実家”であるUAゼンセンで講演ができることをうれしく思う。このような機会をいただいたことに感謝したい。私は国際畑を歩んできたので、私のこれまでの活動とアジアの女性を取り巻く環境を共有できればと思う」と述べました。その後、男女共同参画の視点を織り交ぜながら、自身の経歴に言及。「私はいわゆる『昭和』の生まれで、最初に製造系の会社に就職した際には『女性は結婚して寿退社するのが当たり前』という時代だった」と振り返りました。
一方で、「どのような時代であっても、例えば結婚などで仕事を一旦は離れたとしても、ずっと社会とつながっていきたいと思った。そのためには『手に職をつけなければ』と漠然と感じていた」と語りました。当時、職場では「(会社都合になるため、退職金が減額されないことから)女性の幸せは『結婚退職』や『出産退職』」という言葉が自然に投げかけられるような状況のなか、終業後に英語の学校に通っていたことなどを取り上げました。その後、通訳を養成する学校へと移り、そこで「ゼンセン同盟(当時)の国際局の募集がある」と告げられた縁で、門外漢だった労働運動の世界に飛び込むことになったと自身の経歴を紹介しました。
”慣習を変えるのは時間がかかる。それでも改善へ向けて行動を”
郷野ITUC会長は、ゼンセン同盟の国際局に入局後、TWARO(国際繊維被服皮革労組同盟アジア太平洋地域組織)の活動をつうじ、初めてアジアにおける女性の課題にふれたことを「貴重な財産になった」と語りました。
これをふまえ、これまでの自身の見聞きした事例を紹介しながら、アジア諸国における女性が直面する課題を共有しました。具体的には、郷野ITUC会長は「以前、ネパールでは『生理中の女性は不浄』という考え方があり、生理期間に小屋のようなところで隔離される風習があった。この期間中にストーブの使用によるガス中毒や蛇に咬まれるなどの理由で、死亡する女性も多かった。現在は法律で禁止されているが、まだ慣習として残っている場合もある」と指摘しました。また、インドにおけるダウリー(花嫁による持参金制度)を取り上げ、「持参金が少なかった場合や持って行かなかった場合に、男性宅で女性が不審死するケースもある。法律上はすでに禁止されているが、2019年には7100名が死亡している」と言及。「日本が良い、アジアが立ち遅れている、と一概に断じることができないが、まだまだ男女平等に程遠い地域もあることを認識しなければならない」と強調しました。
その他、アジアにおける女性労働者を取り巻く課題として、2013年にバングラデシュのラナプラザビルが倒壊し、縫製工場で働いていた約1100名以上の労働者が死亡した事例を取り上げました。「ラナプラザの倒壊で亡くなったのは、縫製工場の労働者のみ。これは、倒壊の危険性を認識しながら、工場主が労働者を働かせ続けたことが原因」と指摘し、この事故を教訓として、縫製工場に発注するブランド側が費用を負担し、工場の安全性を点検する「バングラデシュ・アコード」の実施が進んでいることを紹介しました。そのうえで、郷野ITUC会長は「このような事故をバングラデシュの国内のみの問題とするのではなく、発注者に当たるブランドなどを含め国際的に安全性を確保していくことが大切」と述べました。
”さらなる女性参画の促進には制度的な後押しが必要”
その後、郷野ITUC会長は女性参画を促す対策に言及。「私自身、若いころは『女性だから』と割り当てられる仕事には、苦手意識があった。当時は『自分で這い上がらなければ』と思っていたが、それでは多様性の確保は進まない。いまは、制度的な手当てが必要と認識している」と述べました。
さらに、現在、国際労働運動の場で活躍している女性リーダー達の名前を挙げながら、「リスクを取ること、成長に賭けること、チャレンジすることなどが大切。夢は大きく持たなければ、人は成長しない」と参加者にエールを送りました。加えて、「私自身のことを思い返すと、漠然と英語を勉強していたとき、『英語を使って仕事ができれば良いな』と夢を抱いていた。それが後々、みずからの道が拓けるきっかけになったように感じる」と実体験を紹介しました。
最後に、郷野ITUC会長は「男性も巻き込みながら、仲間づくり、制度づくりへ向けて、共に頑張りましょう」と講演を締めくくりました。
1998年9月…TWARO(国際繊維被服皮革労組同盟アジア太平洋地域組織)書記長
1999年9月…ゼンセン同盟常任中央執行委員(国際局長)
2002年9月…UIゼンセン同盟常任中央執行委員(国際局長)
2012年11月…UAゼンセン常任中央執行委員(国際局長)
2016年5月…インダストリオール・グローバルユニオン繊維衣料製靴皮革部門共同議長
2016年9月…UAゼンセン副会長
2016年10月…インダストリオール・グローバルユニオン会計監査
2016年12月…インダストリオール・グローバルユニオン日本加盟組織協議会事務局長(現職)
2016年12月…日本労働組合総連合会(連合)参与(現職)
2017年1月…ILO(国際労働機関)理事
2020年9月…UAゼンセン参与(現職)
2021年6月…ILO理事再選
2022年11月…ITUC(国際労働組合総連合)会長