医療・介護で働く仲間の視点で、新型コロナ感染症の労災認定基準を質す
労災防止への取り組み強化を促す田村議員(左)と耳を傾ける加藤大臣
労働者が安全で健康に働くことができることは、基本的な労働条件の一つです。労働者が仕事をつうじ、心身に傷を負ったり、命を落としたり、健康を害したりすることは決してあってはならないことです。業種や企業・事業所規模、性別などに関わらず、労働者を労働災害(労災)から守るためには、計画的な取り組みを実施する必要があります。そのため、2023年3月8日、厚生労働省は労働災害を減少させるために、国の重点的に取り組む事項を定めた「第14次労働災害防止計画」(2023年3月27日公示。計画期間:2023年4月~2028年3月)を策定しました。
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2023年5月16日、田村まみ組織内参議院議員は厚生労働委員会で、「第14次労働災害防止計画」を取り上げ、労災防止に関する質疑を行いました。質疑の冒頭、田村議員は本年5月8日から新型コロナ感染症について、感染症法上の位置づけが「5類感染症」に移行したことに言及。そのうえで、「社会生活は徐々にコロナ禍以前の状態に戻りつつあるが、医療や介護の現場においては引き続き、他産業と比較してクラスター発生の蓋然性が高い。この間、医療・介護の現場では、感染経路不明の新型コロナ感染について、労災の認定を受けていた。一方、季節性インフルエンザやノロウイルスの感染の場合、労災認定には感染経路の特定が要件となっている。新型コロナ感染症が5類に移行されることにより、今後、新型コロナ感染に対する労災認定はどのような扱いになるのか」と質問を投げかけました。
これに対し、鈴木英二郎労働基準局長は「新型コロナ感染症は極めて感染力が高く、経路不明の場合には、これまでと同様、業務による感染の蓋然性で判断することとなる」と回答しました。これを受けて、田村議員は「医療や介護の現場はもちろん、その他の産業においても個別の事例ではどこまで蓋然性が認められるか不透明に感じる。社会生活を現場で支える従業員に対し、労災認定を冷静な判断で行ってほしい」と訴えました。
”中規模・小規模の事業所において、より一層の労働安全衛生対策の強化を”
中規模・小規模事業所に対する労災防止対策の強化を求める田村議員
続いて、田村議員は中規模・小規模の事業所における労働安全衛生対策を取り上げ、「現状では、労働安全衛生法における事業所単位での判断により、大企業でも50名未満の事業所では安全衛生委員会の設置義務がなくなる。中規模・小規模の事業所ほど、労働安全衛生の対策が進んでいない点もふまえ、安全衛生委員会の設置基準を見直すべきではないか」と求めました。
これに対し、鈴木労働基準局長は「これまでもご指摘をいただいている点ではあるが、事業所への負担も考慮し、現行の設置基準で運用を行っている。一方、50名未満の事業所についても、10名以上の事業所に関しては、安全衛生推進者の設置などを義務づけている。また、労働安全衛生に関する専門家の派遣や転倒防止対策に関する補助金の支給などで、中規模・小規模の事業所をサポートしている。引き続き、これらの活用を促していきたい」と回答しました。田村議員は重ねて「小規模の事業所ほど、補助金などの制度にアクセスできていない。中規模・小規模の事業所における労働安全衛生を確保するためには、この差を埋める必要がある。検討ではなく具体的な対応が重要」と指摘しました。
転倒や腰痛など、流通・サービス業における労災防止対策を促す
業種や性差などの属性にふれ、労災防止対策強化を訴える田村議員
その後、田村議員は流通・サービス業など第3次産業における労災防止対策に言及しました。具体的には、第3次産業では女性の就労比率が高まっていること、業種の特性として死亡災害発生の可能性が低く、事業所内で労災防止へ向けた安全意識やノウハウ等の蓄積・共有が困難となっていることなどをふまえ、「女性活躍が進み、女性が担う業務の領域も広がっており、そのなかで労災も増加している。製造業における官民協議会なども参考に、第3次産業の特徴に応じた対策を進める必要がある。また、第14次労働災害防止計画の計画期間に囚われずに、性差を柱とした対策を実行すべき。」と提起しました。
これに対し、加藤勝信厚生労働大臣は「中高年齢の女性の転倒や腰痛など、第3次産業における労災の対策が必要と認識している。労使の意見をふまえ、第14次労働災害防止計画を策定したので、この計画においてPDCAサイクルを回していきたい。一方で、性差による労災の差が就労を阻むこともあると理解している。別途必要が生じた場合は、適宜検討・実行していきたい」と回答しました。
化学物質の保管、発注者への周知など新たな取り組みを労災防止につなげる
化学物質管理や陸運業、林業の特性に言及し質問する田村議員
また、田村議員は健康障害防止の観点から化学物資の保管にふれ、来年4月1日からリスクアセスメントの対象物質が拡大されることを指摘。そのうえで、「化学物質を使用する工場や建設の現場では、人手不足などもあり、リスクアセスメントが必ずしも進んでいない現状がある。厚生労働省として、どのような形でリスクアセスメントを支援し、徹底させていくのか」と問いかけました。これに対し、鈴木労働基準局長は「ご指摘の点につき、ホームページをつうじたツールの提供、講習会の実施、個別相談などでリスクアセスメントの支援につとめている」と回答しました。田村議員は重ねて「中規模・小規模の事業者が、ツールにたどり着くことができ、十分に活用できるような工夫が必要」と求めました。
さらに、トラック運送など、陸運業における労災防止対策について、「陸運業における労災の発生は、全産業と比較して約4倍であり、対応が急務。また、ほとんどの労災が荷主や配達先で発生している。労災防止のガイドラインを荷主にも周知する必要がある」と提起しました。加えて、「荷主対策チームや匿名の相談窓口などが設置され、情報収集や相談対応に注力しているが、相談件数などから考えると、まだ対応は不十分に思える。荷送りの発注者である荷主に対しても労災防止へ向けた周知を進めるべき」と訴えました。同様に、田村議員は林業における労災防止についても、「事業主だけでなく、発注者を含めた周知が必要」と訴えました。
最後に、田村議員は「安心・安全な職場をつくることは、企業の尊重すべき人権の一つ。経済産業省とも連携し、サプライチェーン全体で環境整備ができるように、対策を強化してほしい」と締めくくりました。