停滞する賃金を引き上げ、”生活防衛・生活向上”の実現を
挨拶を行う松浦昭彦UAゼンセン会長
2022年12月12日、UAゼンセンは2023労働条件闘争へ向けて、記者会見を開催しました(報道関係者等17社25名が出席)。
冒頭、松浦昭彦会長は挨拶のなかで、「現在、私達の賃金は長らく停滞しており、先進諸国と比較しても立ち遅れている。過日、政策フォーラムを開催し、2023労働条件闘争の方針素案について討議を行った。参加した加盟組合においても自組織の賃金実態と目の前の生活環境を見れば、賃上げの必要を感じている。一方で、討議のなかでは、適正な価格転嫁を含め、賃上げへ向けた環境整備についても、従来以上の取り組みが必要という意見も多かった。UAゼンセンとしても労使交渉のサポートとなる環境整備に注力していきたい。2023労働条件闘争では、『去年より少しだけ賃金を上げればいい』ではなく、労使双方で『停滞した賃金の引き上げに役割を果たす』というように、意識を転換させる必要がある。環境整備については、UAゼンセンとして情報発信にも精いっぱい取り組んでいきたい」と述べました。
続いて、松井健労働条件局長が、2023労働条件闘争における闘争方針案について説明を行いました。松井局長は、今次闘争の焦点として、原材料価格やエネルギー価格が上昇するなか、賃金を引き上げることについて、企業はコスト増への懸念を示している点に言及。そのうえで、「いま、社会全体で賃上げを行わなければ、消費はさらに冷え込み、経済はより一層、低迷してしまう。個別企業の論理ではなく、社会的な賃上げを行っていくという方向性で議論を行う必要がある」と強調しました。その後、賃金要求基準などについて情報共有しました。さらに、社会的な賃上げの実現へ向けて、要請活動にも継続して取り組むことについても言及しました。
「2023労働条件闘争方針案」を説明する松井健労働条件局長
【参考】UAゼンセン 2023労働条件闘争方針(賃金闘争 要求の考え方)
組合員の期待に応え、社会的な賃上げの流れをつくるため、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%程度、合計6%程度の賃金引き上げを目ざす。
【参考】連合 2023春季生活闘争の取り組み内容
各産業の「底上げ」「底支え」「格差是正」の取り組み強化を促す観点と、すべての働く人の生活を持続的に・維持・向上させる転換点とするマクロの観点から、賃上げを3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度とする。
社会保険の適用拡大で”生涯にわたる生活の安定”をはかる
続いて、永井幸子副書記長が短時間労働者に関し、2023労働条件闘争の方針にある社会保険の適用拡大の取り組みについて説明を行いました。永井副書記長は今次闘争において社会保険の適用拡大に取り組む意義として、「最低賃金が引き上げられる一方、いわゆる『年収の壁』を意識し、扶養の範囲で働くこと(=就業調整)を選択する短時間労働者も多い。この状況は賃上げにおいても同じようになりかねないといった問題意識がある」と述べました。
その後、社会保険の適用拡大に伴うメリットや課題、UAゼンセンの取り組みの背景、組合員から届いた声などにふれながら、「短時間労働者の働き方の選択は多様だが、制度の壁が労働者を分断している状況を改善したい。そのために、労使で就業調整に対する取り組みを進めていきたい」と提起しました。
社会保険の適用拡大について提起する永井幸子副書記長
質疑応答の内容(抜粋)
Q:賃上げに関し、連合は「5%」を掲げている一方で、UAゼンセンとして「6%」を目標とした理由は?
A:連合は、物価上昇をふまえつつ、継続的・持続的に進めていく数字として「5%」を打ち出していると認識している。しかしながら、連合に集う産別の産業は多種多様であることをふまえ、「5%」を了としたが、UAゼンセンがこれまで続けてきた「産業間」「雇用形態間」「企業規模間」の格差是正を進めていくためには「5%」では足りず、「6%」という数字で闘争を進めることとした。
Q:賃上げへ向けた環境整備が重要だと思われるが、具体的にはどういったものを求めていくのか?
A:ご指摘のとおり、環境整備が非常に重要となっている。例えば、税制では「賃上げ促進税制」は法人税を納めている企業しか適用にならない。そのため、法人税以外の固定資産税や外形標準課税などからも賃上げ分を控除できるように以前から要請を行っている。また、助成金では「キャリアアップ助成金」なども拡充されてはいるが、活用方法などの周知が不十分だと考えている。さらに、政府から企業に対し、働きかけるアウトリーチ型の取り組みが必要であり、引き続き要請をしていきたい。一方で、一時的なものである助成金は「つなぎ」に過ぎず、企業体力の強化が重要だと認識している。そういった点を企業側にも認識していただく必要があり、合わせて伴走型の支援を政府に求めていく。
Q:現在、デジタル化との関連もあり、政府は積極的に「リスキリング」(=次世代の働き方へ向けて新しいスキルを身に着けること)を打ち出しているが、連合は否定的な見解を示しているように感じる。UAゼンセンは「リスキリング」についてどのようなスタンスか?
A:産業構造が大きく変化するなかで、UAゼンセンとしては「雇用の流動化」自体は否定しないが、「雇用の流動化」には、セーフティネットの議論がセットで必要であると考えている。解雇の金銭解決と合わせて、議論することには違和感がある。「リスキリング」については、まずはいまの企業をどのようにしていくかを考えるべきとしている。必要な変化に対応することは重要だが、転職の推進という意味では賛成しかねる。
Q:「人権デュー・ディリジェンス」の観点で、UAゼンセンは繊維産業のガイドラインの策定に関与している。この分野について、今回の闘争でどのように打ち出していくのか?また、これと関連して技能実習制度に関し、UAゼンセンのスタンスに変化はあるか?
A:本項目は今次闘争から新設したもの。「企業と人権」に関するUAゼンセンの取り組みについては、闘争とは別に確認するが、今後、その確認を受けて、この新しい項目について組織内の理解浸透をはかっていきたい。技能実習制度、特定技能については現在、連合での議論が進められている。そのなかで意見交換をして取りまとめていきたい。制度の本来の趣旨である「日本で働きながら技能を習得し本国に伝える」の実現こそが重要であると考えている。
Q : 「社会保険の適用拡大について組合員へ正確な情報を伝える」とあるが、具体的にはどのような知識を伝えるのか?
A:年末における就業調整の原因として、社会保険の適用は「月額賃金が8.8万円以上」が要件となり、「年収106万円以上」というのはあくまで参考の値であることへの組合員の認識不足などがあり、これを改善していきたい。また、厚生年金については「65歳時点で加入期間が10年以上」であれば支給されることなども伝えていきたい。
Q : 「2022年度UAゼンセン組合員意識調査」では、約4割の短時間組合員が就業調整を選択しているとあるが、この数字をどのように評価しているか?また、具体的な対応として正しい理解を進めていくとあるが、それ以外に取り組むものはあるのか?
A:ご指摘の数字について組織として正式な見解は出していないが、前回の調査とほぼ同じ数字であることから、一定の割合で就業調整を選択する短時間組合員がいると認識している。正しい知識の普及以外の取り組みとして、労使による取り組みと、組織内参議院議員と連携した政策要請などを両輪として進めていきたい。