食品関連産業において「価値」に見合った「適正価格」の実現を
食品関連産業は、安心・安全な食品を安定的に供給することで、私達の生命と豊かで健康な食生活を支えています。一方で、食品は生活必需品であり、消費・価格ともに消費者の意向が反映されやすいため、本来の「価値」に見合った「適正価格」の実現が課題となっています。また、取引現場における「優越的地位の濫用」など、取引慣行の改善も依然として深刻な課題です。
これらをふまえ、UAゼンセンは2003年から毎年、フード連合(=食品関連産業の労働者が集まる産業別労働組合。連合加盟。組合員は約11万名)と共同で「取引慣行に関する実態調査」を実施しています。本実態調査では、現場の組合員(営業担当者)を対象に、実際の取引現場における「優越的地位の濫用」行為に該当しかねない事例を収集。収集した事例については、独占禁止法や下請法、「食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン」(農林水産省)にもとづき、「14の問題となり得る取引事例」や望ましい取引事例として整理しています。
2023年9~10月に実施した今回の実態調査では、110社の加盟組合企業から昨年を上回る4931件の回答を集約(昨年は4257件)。昨年に引き続き、上記「14の取引事例」のうち、「原材料価格等の上昇時の取引価格改定」(514件:昨年は474件)「従業員の派遣、役務の提供(不当な労務提供)」(479件:昨年は439件)「店舗到着後の破損処理」(408件:昨年は306件)の各項目で多くの事例が集まりました。具体的には、「取引先の一方的理由で納品価格が据え置かれた」や「休日や深夜における労務提供が依然として発生している」「破損原因の特定に至らない段階で一方的な返品対応を求めらる」といった現場の切実な実態が明らかとなりました。
また、「食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン」の周知状況では、「内容を知っていた」は回答者全体の12.4%(184件)に留まり、「内容はよく知らないが、存在は知っていた」(52.0%)や「知らなかった」(35.5%)が大半を占め、同ガイドラインの周知徹底の課題を浮き彫りにしました。さらに、「問題となり得る取引が発生した際の対応」の項目では、会社・上司の対応について「具体的な指示はなかった」などの事例もいまだに発生しており、より一層の意識醸成の必要性をうかがわせる結果となりました。「取引慣行の改善状況」では、回答者全体の65.0%は「変化は感じていない」としており、引き続き、適正取引の実現へ向けた取り組みを推進する必要があります。
働く仲間の声を届け、適正な価格転嫁の実現と取引慣行改善へ
中小企業庁に対し、働く仲間あの声を力強く届ける田村議員
本実態調査をふまえ、2024年2月9日、UAゼンセンとフード連合は共同で公正取引委員会、中小企業庁、農林水産省、消費者庁の4省庁に対する要請を行いました。具体的な要請内容は下記のとおりです。
公正取引委員会では、UAゼンセン総合サービス部門・フード部会の細矢博之部会長(全プリマハム労働組合)が「いま、継続する物価高の影響から、社会的な賃上げの機運のなかで『労務費の価格転嫁が必要』という声が多く上がっている。いま、労務費等の適正な価格転嫁ができなければ、企業の利益はさらに圧迫され、賃上げの原資を確保することも困難になってしまう。この視点を持ちながら、適正な価格転嫁の後押しをしてほしい」と提起しました。また、川合孝典組織内参議院議員は「政労使が一致団結し、賃金と物価の好循環を生み出すことが重要」と強調しました。これに対し、藤本哲也事務総長は「サプライチェーン全体での適正な価格転嫁実現に、政府一丸となって取り組んでいきたい」と応じました。
一方、中小企業庁では、田村まみ組織内参議院議員が「地方自治体の議員と意見交換をした際に、地方でも政労使が適正な価格転嫁の推進をはかれるように、『通達』といった形で具体的な後押しのための行動が必要」と求めました。これに対し、原拓未事業環境部取引課総括係長は「中小企業の賃上げ原資確保へ向けた適正な価格転嫁の推進は、政策の一丁目一番地。いただいた声を政策・制度に反映していきたい」と応じました。
続く農林水産省では、UAゼンセンの松浦昭彦会長が「生産者から食品製造・物流、小売を経て、消費者に食品が届くまでの一連の流れのなかで『価値』に見合う『価格』を考えていけるように、意識醸成をはかってほしい」と訴えました。これに対し、西澤克二大臣官房調整官は、「いただいたご意見をふまえ、『適正価格』の実現に努めていきたい」と回答しました。
最後に、消費者庁では細矢部会長が「『適正な価格転嫁』や『適正価格』『物価と賃金の好循環』などに関し、消費者の理解促進をはかっていくことが必要。引き続き、情報発信の強化に努めてほしい」と求めました。これに対し、山地あつ子消費者教育推進課長は「引き続き、消費者の理解促進をはかるため、庁として情報発信の強化に取り組んでいきたい」と応じました。