”組合員の豊かな老後生活の実現へ向けて労働組合も積極的に関与を”

 

谷内教授

企業年金の実施状況を示す谷内教授

 

 2024年7月25日、UAゼンセンは加盟組合労使35名の出席のもと、「2024年度企業年金セミナー」を開催しました。「老後資金2000万円問題」が注目されて以降、退職一時金や企業年金など退職給付のあり方に注目が集まっています。一般的な退職給付には、退職一時金に加え、確定給付企業年金や確定拠出企業年金などがあります。それぞれの企業によって制度の有無や運用方法は異なります。また、昨今はiDeCoや新NISAなど、個人による資産形成・資産運用についても、政府による活用促進がはかられています。このような状況のなかで、組合員が将来にわたって豊かな生活を送れるように、十分な老後資金の確保を目ざし、労働組合も積極的に声を上げる必要があります。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 冒頭、UAゼンセンの松井健労働条件局長は「本セミナーは、『労働組合は、毎年の賃上げに加え、組合員の豊かな老後生活を実現するため、退職給付についてもしっかりと関与し、十分な金額を確保する必要がある』という趣旨で、2016年から毎年開催をしている。現在、退職一時金や企業年金など、これまでの退職給付に加え、新NISAなど、個人の資産形成を促進する新たな制度もスタートしている。著しい物価高騰が続く昨今、労働組合として組合員の退職給付の確保に関与し、その充実をはかっていかなければ、退職給付はどんどんと目減りしてしまう。本セミナーで企業年金などの退職給付や資産形成について理解を深め、労働組合として声を上げるきっかけとしてほしい」と述べました。

 

 続いて、名古屋経済大学の谷内陽一教授から「企業年金制度を取り巻く動向と労働組合としての対応」「人生90年時代における資産形成と労働組合の関わり方」の2部構成で講演をいただきました。

 

 第1部「企業年金制度を取り巻く動向と労働組合としての対応」では、谷内教授は統計資料をもとに退職給付や企業年金の実施状況などに言及。具体的には、大企業、中堅・中小企業それぞれにおける退職一時金・確定給付企業年金(DB)の制度設計などを取り上げ、それをふまえ、「この間、食料品を筆頭に物価は上昇している。一方で、残念ながら賃金は物価上昇をカバーできるほどは上昇していない。加えて、金利も上昇基調にある。これらのインフレ要素を加味し、退職金・企業年金の給付設計を考えていく必要がある」と指摘。具体的には、退職金・確定給付企業年金におけるインフレ対応として、「例えば、単価とポイントの累計で退職一時金の金額を決定する『ポイント制』の場合、労使協議のもと、定期的に単価を見直すといったことも今後、検討していく余地がある。また、確定給付企業年金の場合、労使交渉によって年金の支払い時の給付利率を引き上げることも可能」と提起しました。さらに、谷内教授は、本年12月から制度改正が実施される確定拠出企業年金(DC)にも言及。近年、利用者が増加しているiDeCo(=各個人で掛け金を拠出・運用することで資産形成をはかる制度)との関係において、各制度の併用時に拠出可能な掛け金額について詳細なパターンを示しながら解説を行いました。

 

 続く第2部「人生90年時代における資産形成と労働組合の関わり方」において、谷内教授は、資産形成・資産運用を取り巻く状況にふれ、「政府は『資産所得倍増プラン』や『資産運用立国実現プラン』『アセットオーナー・プリンシプル』など、国民に対し、積極的な資産運用による資産形成の促進をはかっている」と指摘しました。そのうえで、自身の体験も交えながら、資産形成・資産運用の前提となる金融リテラシー向上の重要性を強調しました。加えて、「組合員の資産形成・資産運用や金融リテラシー向上に労働組合として関与していくためには、公的機関や労働金庫、全労済など外部の専門的な知見を活用していくことが必要。また、前提として『UAゼンセン共済』などもより一層、加入を促進していくことが重要」と示しました。

 

”働く仲間の視点から退職給付の制度設計を考える” グループ討議を実施

 

グループ討議

3つのグループに分かれ、積極的なグループ討議を行った

 

 2部構成にわたる講演後には、A~Cの3つのグループに分かれ、グループ討議を実施しました。グループ討議のなかでは、それぞれの出席者から、自組織の制度上の悩みや効果的な金融リテラシー向上の方法、組合員にとって使い勝手の良い制度を構築するポイントなど、日ごろの組合活動のなかで生じた課題などを共有し合いました。

 なお、各グループには、第一生命株式会社のコンサルタントに参加していただき、専門的な知見からの助言をいただきました。

 

 最後に、松井労働条件局長は「繰り返しになるが、この著しい物価高騰の状況で、なにもしなければ、組合員の退職給付は目減りしてしまう危険性がある。これは逆に言えば、退職給付の制度に関して労使で議論するチャンスと捉えることもできる。それぞれの組織に、それぞれの制度があり、それぞれが置かれた状況がある。一番大切なことはまずは労使で議論をすること。UAゼンセンとしても、加盟組合と連携し、共に対応をはかっていきたい」と今回のセミナーを締めくくりました。

RELATED関連記事